大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)7434号 判決 1991年3月25日
原告
三ツ矢鉄工株式会社
被告
有限会社旭製作所
主文
一 被告は、原告に対し、金一七七七万五〇〇〇円及び内金一六二七万五〇〇〇円に対する昭和60年9月22日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、別紙イ号物件説明書記載の紙管口金取付装置及びこれを装着した両口型紙管口金取付機、並びに別紙ロ号物件説明書記載の紙管口金取付装置及びこれを装着した片口型紙管口金取付機を製造し、販売してはならない。
2 被告は、原告に対し、金四五六九万九七九三円及び内金四〇六九万九七九三円に対する昭和60年9月22日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員(民法所定の遅延損害金)を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二事案の概要
本件は、原告が、被告に対し、その特許権に基づき、被告製造に係る紙管口金取付装置及びこれを装着した紙管口金取付機の製造、販売の差止と、被告が昭和55年7月3日(本件発明の出願公告日)から昭和59年秋ころまでの間に右機械を販売したことにより原告が被つた損害の賠償を請求した事件である。
第三原告の特許権、その構成要件及び作用・効果
一 原告の特許権
原告は、左記の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)を有する(争いがない)。
1 発明の名称 紙管口金取付装置
2 出願日 昭和49年3月30日(特願昭49-35902)
3 公告日 昭和55年7月3日(特公昭55-25109)
4 登録日 昭和56年2月20日
5 登録番号 第1033019号
6 特許請求の範囲
「1 紙管口金に対し挿脱すべき嵌合筒3と、外周に円弧状プレス面51内面に外方へ拡大するテーパ面52を有す複数のプレス駒5及び内面に前記テーパ面52と一致する内向き拡大の傾斜面62を有し先端に円弧状プレス面61を有す複数の出没駒6とを交互に組み合わせて前記嵌合筒3に半径方向へ出没可能に支持せしめ両駒のプレス面51、61の連続によつて真円を形成するプレス具4と、隣接プレス駒間を引張つてプレス具4を縮小保持した牽引手段7と、前記プレス具4の出没駒6の中央に挿入された先細斜面81を有す楔軸8と、楔軸8の斜面上に配置されバネで押し下げられて筒周面から没入し先端に尖端91を有すポンチ駒9と、楔軸を往復駆動させポンチ駒9及びプレス具4を出没作動せしめる駆動装置10とから成る紙管口金取付装置。」(別添特許公報-以下「本件公報」という-該当欄参照)
二 本件発明の構成要件
右本件公報の「特許請求の範囲」欄の記載によれば、本件発明の構成要件は、次のとおり分説するのが相当である(甲一)。
1 紙管口金に対し挿脱すべき嵌合筒3と、
2 外周に円弧状プレス面51内面に外方へ拡大するテーパ面52を有す複数のプレス駒5及び内面に前記テーパ面52と一致する内向き拡大の傾斜面62を有し、先端に円弧状プレス面61を有す複数の出没駒6とを交互に組み合わせて、前記嵌合筒3に半径方向へ出没可能に支持せしめ、両駒のプレス面51、61の連続によつて真円を形成するプレス具4と、
3 隣接プレス駒間を引張つてプレス具4を縮小保持した牽引手段7と、
4 前記プレス具4の出没駒6の中央に挿入された先細斜面81を有す楔軸8と、
5 楔軸8の斜面上に配置されバネで押し下げられて筒周面から没入し先端に尖端91を有すポンチ駒9と、
6 楔軸を往復駆動させポンチ駒9及びプレス具4を出没作動せしめる駆動装置10とから成る
7 紙管口金取付装置
三 本件発明の作用・効果
1 本件発明の作用
本件発明にかかる紙管口金取付装置は、右二の構成要件を具備することにより、次のとおり作用する(甲一、弁論の全趣旨)。
(一) プレス具が縮小し、各ポンチ駒の尖端が嵌合筒内に没入している状態で、嵌合筒に口金、紙管の順で嵌挿され、
(二) 次いで、嵌合筒内においてその軸心に沿い駆動装置を駆動させて、先細斜面を有する楔軸を紙管側に前進(往運動)させると、
(三) 各ポンチ駒、各出没駒に接している部分の楔軸の直径が大きくなるように変位するため、嵌合筒の周囲に設けられた孔(ポンチ駒取付孔)の下で楔軸の斜面上に配置された各ポンチ駒は、楔軸が紙管側に前進するにつれて嵌合筒の半径外方に移動し、ついには各ポンチ駒の尖端は嵌合筒の外表面の外に突出して口金の内周面にポンチ打ちを行ない、これと同時に嵌合筒に装着されたプレス具を構成する各出没駒は、その組み合せの中央に挿入された楔軸が紙管側に前進するにつれて楔軸の径外方に拡がり、この拡がりによつて、各出没駒を包み込んでいた各プレス駒のテーパ面が各出没駒の傾斜面によつて楔力を受け楔軸の径外方に押されて拡がり、ついにはプレス駒とプレス駒の間に各出没駒の円弧状プレス面が臨出し、各プレス駒の円弧状プレス面と連続して真円を形成して口金の奥端周縁を紙管内周面へ押圧屈曲させ、
(四) 右の作業により、紙管と口金はポンチ打ちと押圧屈曲部の個所で同時に取り付け固着され、
(五) この後、楔軸が駆動装置の方向へ戻つた(復運動)時、各ポンチ駒、各出没駒に対する楔軸の径外方への圧力が解消し、各ポンチ駒の尖端は、同駒のバネ受けと嵌合筒内面側に設けられた押下げバネにより押し下げられて嵌合筒内部に没入し、プレス具は、各プレス駒間を牽引していた牽引手段の力によつて各プレス駒が中心部に向い縮小し、この縮小動作により各プレス駒の内側にあつた各出没駒も縮小し、プレス具全体が縮小して元の状態に復帰するので、紙管は嵌合筒からの脱嵌が可能となる。
2 本件発明の効果
本件発明は、右1のように作用して、嵌合筒を回転させることなく、嵌合筒中へ楔軸の先細斜面を挿入し、嵌合筒の周面からポンチ駒の尖端を突出させると同時にプレス駒と出没駒との両円弧状プレス面が交互に連続した真円のプレス面を突出させて、口金面内のポンチ打ちと奥端周縁の屈曲とを同時に行なうことによつて、例えば新聞紙用ロール等紙材の巻付け芯となる紙管に対して口金を強固に取り付け、紙管の使用中に口金が外れるおそれがないようにする効果を奏する(甲一、弁論の全趣旨)。
第四被告製品の販売とその技術的構成
一 被告の製造販売
被告は、昭和54年末ころから、業として、別紙イ号物件説明書記載の紙管口金取付装置(以下「イ号物件」という。)を装着した両口型紙管口金取付機(以下「イ号機械」という。)及び同ロ号物件説明書記載の紙管口金取付装置(以下「ロ号物件」という。)を装着した片口型紙管口金取付機(以下「ロ号機械」という。)を製造、販売していた(争いがない。但し、その後、被告がイ、ロ号物件を設計変更した紙管口金取付装置に切替えたことについては後記第六の三の判示参照。)。
なお、右別紙イ号物件説明書及び同ロ号物件説明書は、原告主張の各物件説明書の表示、説明を、イ、ロ号物件の技術的構成と本件発明の構成要件を対比するうえで、必要ないし相当と思われる範囲で一部補正したものである(図面そのものについては争いがない。)。その主な点は、イ、ロ号各図面の各第3図に、「100'」(ガイド溝)の指示を追加表示し、「図面の説明」中の「図中で使用した符号の説明」につき左記の訂正ないし追加をしたことである。
記
(35')ポンチ駒取付孔→ポンチ部取付孔
(6')出没駒→プレス駒押圧部
(61')プレス面→円弧状プレス面
(9')ポンチ駒→ポンチ部
(94')ブロツク→出没ブロツク
記載なし→(100')ガイド溝
二 イ、ロ号物件の技術的構成
イ、ロ号物件の技術的構成は、次のとおり分説するのが相当である(なお、イ号物件は両口型紙管口金取付機用、ロ号物件は片口型紙管口金取付機用であるが、紙管口金取付装置としての技術的構成は同一である。また、右分説中の符号は、別紙イ号物件説明書及び同ロ号物件説明書記載のものである。以下、同じ。)。
1 紙管口金に対し挿脱すべき嵌合筒3'と、
2 外周に円弧状プレス面51'、内面に外方へ拡大するテーパ面52'とを有する六個のプレス駒5'及び内面に前記テーパ面52'と一致する内向き拡大の傾斜面62'を有し、先端に円弧状プレス面61'を有する六個のプレス駒押圧部6'(六個の出没ブロツク94'の各一部)とを交互に組み合わせて、前記嵌合筒3'に半径方向へ出没可能に支持せしめ、プレス駒5'の円弧状プレス面51'とプレス駒押圧部6'の円弧状プレス面61'の連続によつて真円を形成するプレス具4'と、
3 隣接プレス駒間を引張つてプレス具4'を縮小保持した牽引手段7と、
4 前記プレス駒押圧部6'と後記ポンチ部9'とを一体に形成した六個の出没ブロツク94'間の中央に挿入された先細斜面81'を有する楔軸8'と、
5 楔軸8'の斜面上に配置され、嵌合筒3'に形成したガイド溝100'に嵌合し、バネ93'で押し下げられて筒周面から没入し、先端に尖端91'を有する六個のポンチ部9'(六個の出没ブロツク94'の各一部)と、
6 楔軸を往復駆動させポンチ駒9'及びプレス具4'を出没作動せしめる駆動装置10'とから成る
7 紙管口金取付装置
第五争点
本件の争点は、(1)本件発明の構成要件2、4の「出没駒」及び同5、6の「ポンチ駒」の解釈とイ、ロ号物件がこれらを具備し、本件発明と同一の作用効果を奏するか否か(侵害の成否)、(2)被告の責任、(3)現在及び将来におけるイ、ロ号物件、又はイ、ロ号機械の製造、販売ないしそのおそれの有無(差止請求の当否)、(4)イ、ロ号機械の販売台数、原告の逸失利益等原告が被つた損害の有無とその額(損害賠償請求の当否)である。
第六争点に対する当裁判所の判断
一 争点(1)(侵害の成否)について
1 「出没駒」と「ポンチ駒」の解釈
(一) 本件発明にいう「出没駒」は、楔軸の出入作動(前進後退)によりプレス駒と一体となつて真円を形成して、紙管口金の先端部を紙管内に押圧屈曲させるものであり、ポンチ駒は紙管口金の内周面にポンチ打ちを行なうものである(本件公報4欄15~36行、5欄4~14行)。そして、本件発明の目的は、これらの作用を同時に行なうことにあると認められる(右同及び2欄27~30行)。
右の本件発明の目的ないし作用・効果(同公報2欄27~30行、5欄4~14行)からすれば、本件発明にいう「出没駒」と「ポンチ駒」は、これらの屈曲とポンチ打ちとを同時になし得る構成のものであれば、その具体的手段である出没駒とポンチ駒とが別個の物から成るものであるか一体構造のものであるかは問わないものと解される。本件発明の「特許請求の範囲」の欄には、これを別体のものと解しなければならないとする程の限定は認められない。
(二) 被告は、右の点に関し次のとおり主張する。すなわち、
本件発明の「出没駒」、「ポンチ駒」における「駒」というのは、それが有する一般的な意味において、各々別々の独立した部品である。また、本件発明の「発明の詳細な説明」欄の記載の全体趣旨及びこれが援用している実施例図(本件公報の第3図ないし第6図)においてもプレス具4の出没駒6とポンチ駒9とは隔壁を隔てて各々独立している点、出没駒が三個であるのに対してポンチ駒が六個存在している点で両社は一体たりえない構造となつている。本件発明の「出没駒」と「ポンチ駒」とは別個の物であり、本件発明は、別体の出没駒6とポンチ駒9とを備える構成のものであると解される。
これに対し、イ、ロ号物件は、これら(プレス駒押圧部6'とポンチ部9')を一体の出没ブロツク94'として形成する構成であり、別体として構成される本件発明の「出没駒」、「ポンチ駒」とは構成を異にする。
(三) 被告の主張は右のとおりであるが、「駒」という言葉が、被告のいうように他の物(部材)から独立した別個の物(部材)を意味する技術用語として確立されていることを認めるに足る証拠はない。また、被告が指摘するその余の点も、元来は、実施例についての記載にすぎないといえるものであり、右のような記載があるからといつて直ちに本件発明の「出没駒」と「ポンチ駒」を別体のものと解しなければならないものではない。
被告主張のように解しなければならないとする必然的な理由はなく、前示のとおり解するのが相当である。
2 構成の対比
(一) イ、ロ号物件の技術的構成1、3及び7が、これと対応する本件発明の構成要件1、3及び7を充足することは、これらを対比することにより明らかである。
(二) そして、本件発明の「出没駒」と「ポンチ駒」に関する右解釈と前記イ、ロ号物件の構成によれば、イ、ロ号物件は、プレス駒押圧部6'とポンチ部9'とで出没ブロツク94'を一体形成することによつて、本件発明の構成である紙管口金の奥端周縁の屈曲とポンチ打ちとを同時になし得る具体的手段としたものであり、イ、ロ号物件のプレス駒押圧部6'は本件発明の「出没駒」に相当し、イ、ロ号物件のポンチ部9'は同「ポンチ駒」に相当するものと認められる。
従つて、イ、ロ号物件の技術的構成2、4及び5、6はそれぞれこれに対応する本件発明の構成要件2、4及び5、6を充足する。
3 作用効果の対比
(一) 右のとおり、イ、ロ号物件は、本件発明の構成要件を全て具備することにより本件発明と同一の作用効果を奏するものと認められる。
(二) 被告は、右の点に関し次のとおり主張する。すなわち、
本件発明においては、出没駒は前進する楔軸によつて楔軸の径方向外側に移動するが、その際出没駒の移動方向をガイドするのは、共に外方向に向つて移動しつつあるプレス駒のテーパ面だけであるので、出没駒の自重も加わり動きは極めて不安定なものとなる。また、楔軸が後退すると、出没駒はプレス駒同士を牽引・縮小する力を受けてプレス駒のテーパ面によつてガイドされながら楔軸の径方向内側に移動するが、これも右理由により極めて不安定であることに加え、プレス駒のテーパ面と出没駒の傾斜面との滑りが十分でない場合は各駒に加わる力が不均一になり移動の不安定さが増す。
これに対し、イ、ロ号物件においては、出没ブロツクの楔軸の径方向(嵌合筒の半径方向)への移動(出没作動)は、プレス駒のテーパ面によつてガイドされるのではなく、プレス駒押圧部とポンチ部とが一体となつた出没ブロツクが、そのポンチ部側において嵌合筒のガイド溝により確実にガイドされる。また、楔軸の後退時に楔軸の径方向内側に移動する力は、イ、ロ号物件においては、プレス駒の牽引・縮小する力によるのではなく、ポンチ部側において出没ブロツク自体を中心方向に押し付けるバネ93'の力によるものであるため、この方向の移動もスムーズになる。
このように、本件発明にはない作用によつて、イ、ロ号物件の出没ブロツクのプレス駒押圧部の移動(出没作動)は不安定さがなく確実でかつスムーズに行なわれる。その結果、イ、ロ号物件においては、プレス時に確実に真円のプレス面を形成することができ、出没ブロツクのプレス駒押圧部とプレス駒とのガタつきがなくなつて、磨耗、クラツクの発生を抑え、製品の寿命をのばすことができるという本件発明にはない効果を奏する。
(三) 被告の主張は、右のとおりである。
しかしながら、前記本件発明の「特許請求の範囲」欄の記載によれば、本件発明は、楔軸の往復運動(前進後退)によつて出没駒が嵌合筒に対して出没作動することを、その構成要件としているが(本件発明の構成要件2及び6)、プレス駒のテーパ面による出没駒のガイド作用はこれをその構成要件とはしておらず、右ガイド作用は本件発明の実施例に関する事柄にすぎない。イ、ロ号物件がガイド溝による出没ブロツクのガイドによりプレス駒押圧部の出没作動の安定さやスムーズさを実現するものであるとしても、そもそもプレス駒の押圧手段である出没駒の出没作動の安定さとかスムーズさとかは、本件発明が解決しようとした技術的課題ではなく、その目的とするところではない。右ガイド溝による出没ブロツク(従つてプレス駒押圧部)のガイド作用は、本件発明に対する付加的なものにすぎないと解するのが相当である。
また、被告は、イ、ロ号物件においては、楔軸の後退時に楔軸の径方向内側に移動する力は、プレス駒の牽引・縮小する力によるのではなく、ポンチ部側において出没ブロツク自体を中心方向に押し付けるバネ93'の力によるものであるため、この方向の移動もスムーズになるというが、前記イ、ロ号物件の構成によれば、イ、ロ号物件のプレス駒押圧部の没入(楔軸の径方向内側への移動)は、右出没ブロツク自体を中心方向に押し付けるバネ93'の力の他に、本件発明の「牽引手段」に該当する「隣接プレス駒間を引張る(バネ72')の力にもよつていることが明らかである(イ、ロ号物件の技術的構成3)。そして、イ、ロ号物件のバネ93'がプレス駒押圧部とは反対側のポンチ部側に配置されていること及びプレス駒押圧部の没入作動がバネ72'によつていることからすると、バネ93'の主たる役割は、プレス駒押圧部を没入させる機能ではなく、むしろポンチ部の押下げ機能にあると考えられる。結局、イ、ロ号物件のバネ93'は、ポンチ部(本件発明ではポンチ駒)の押下げ機能をその本来の役割とするものであるが、イ、ロ号物件においてはプレス駒押圧部とポンチ部とが一体となつて出没ブロツクを形成しているため、バネ93'が結果的にプレス駒押圧部の没入作動にも機能することになつたものといえる。この意味において、イ、ロ号物件のバネ93'がプレス駒押圧部の没入作動に占める役割は付加的、補助的なものにすぎないといえる。
(四) 右のように、被告が本件発明にないイ、ロ号物件独自の作用・効果と主張する「ガイド溝100'によるプレス駒押圧部のガイド」及び「プレス駒押圧部の没入作動に対するバネ93'の役割」は、いずれも本件発明が予定する作用効果を奏したうえでの付加的なものにすぎない。
4 侵害の成否
以上のとおり、イ、ロ号物件の技術的構成1ないし7は、これに対応する本件発明の構成要件1ないし7を全て充足し、本件発明の作用効果と同じ作用・効果を奏するから、イ、ロ号物件はいずれも本件発明の技術的範囲に属するというべきである。
二 争点(2)(被告の責任)について
以上によれば、被告が業としてイ、ロ号物件、又はこれらを装着したイ、ロ号機械を製造、販売することは、原告の本件特許権を侵害することになるというべきところ、被告には右侵害行為について過失があつたものと推定される。従つて、被告は、右侵害行為によつて原告が被つた後記損害を賠償する義務がある。
三 争点(3)(差止請求の当否)について
被告は、昭和59年1月ころからイ、ロ号物件の設計変更(改造)に着手し、遅くとも同年7月31日までには、イ、ロ号物件を設計変更(改造)した紙管口金取付装置(別紙参考図二参照。以下「被告新型装置」という。)を完成した(甲三~五、一一、一二、一五、乙九の一、二、同一一~一五、二〇、検甲二、証人四條滋樹、同矢田隆三、被告代表者本人、弁論の全趣旨。)。
しかし、被告が右設計変更後もイ、ロ号物件、又はこれらを装着したイ、ロ号機械を業として製造、販売していたこと及び今後これらを製造、販売するおそれがあることを認めるに足りる証拠はない。
従つて、原告らの本訴請求のうちイ、ロ号物件及びこれらを装着したイ、ロ号機械の製造、販売の差止を求める部分は、この点において既に理由がないから、以下においては、損害賠償請求について判断を進めることとする。
四 争点(4)(損害賠償請求の当否)について
1 原告の主張
(一) 被告のイ、ロ号機械販売台数
被告は、本件発明の出願公告日である昭和55年7月3日から被告が被告新型装置に切替えた昭和59年秋ころまでの間にイ号機械二三台及びロ号機械一三台を製造し、かつ販売した。
(二) 原告の得べかりし利益
(1) 右(一)の期間において、原告が製造し、かつ販売した本件発明の実施品の純利益は、イ号機械との競合品である両口型については、その一台当りの平均販売価格三六四万一〇〇〇円から製造原価・その他の経費の合計二二五万七八四九円を控除した一三八万三一五一円(利益率三七・九八パーセント)であり、ロ号機械との競合品である片口型については、その一台当りの販売価格一八〇万円に右利益率三七・九八パーセントを乗じた六八万三六四〇円である。
(2) 原告は、右期間中に、もしも被告がイ、ロ号機械を製造、販売しなかつたならば、同台数の本件発明の実施品を製造し、かつ販売し得た。
(3) 従つて、原告は、前記(一)の被告の販売行為により得べかりし利益四〇六九万九七九三円(一三八万三一五一円二三台六八万三六四〇円一三台)を失つた。
(三) 被告の得た利益
(1) 前記(一)の期間において、被告が製造し、かつ販売したイ号機械の純利益は、一台当りの平均販売価格四二三万円から被告自認の製造原価・その他の経費の合計三三一万六一六〇円(乙五の二)を控除した九一万三八四〇円であり、ロ号機械の純利益は、一台当りの販売価格二五〇万円から被告自認の製造原価・その他の経費の合計一八一万五三七〇円(乙五の一)を控除した六八万四六三〇円である。
(2) 従つて、被告が前記(一)の販売行為により得た利益二九九一万八五一〇円(九一万三八四〇円二三台六八万四六三〇円一三台)が、被告の本件特許侵害行為により原告が受けた損害の額と推定される。
(四) 弁護士・弁理士費用
原告は、本訴請求についての弁護士・弁理士費用として合計五〇〇万円の支払を約した。
(五) まとめ
原告は、被告に対し、被告の本件特許侵害行為(不法行為)により被つた損害の賠償として、主位的に前記(二)の原告の得べかりし利益と右(四)の弁護士・弁理士費用との合計額四五六九万九七九三円、予備的に前記(三)の被告が侵害行為により得た利益と右弁護士・弁理士費用との合計額三四九一万八五一〇円、並びに右弁護士・弁理士費用以外の損害金につき昭和60年9月22日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 当裁判所の判断
(一) 被告のイ、ロ号機械販売台数
被告は、右の点について、本件発明の出願公告日である昭和55年7月3日から被告が被告新型装置に切替えた昭和59年1月までの間に被告が製造し、かつ販売したのは、別紙被告自認販売分一覧表(以下「別紙一覧表」という。)記載のとおりイ号機械が一五台、ロ号機械が七台であるとして、その限度で前記1(一)の原告の主張を認める。
ところで、前記1(一)の原告主張の販売台数(イ号機械二三台、ロ号機械一三台)は、主として甲六(四條滋樹作成の陳述書)及び証人四條滋樹の証言に基づくものである。しかしながら、(1)甲六の作成名義人である四條滋樹は、被告代表者の実弟であり、昭和45、6年ころから被告の営業を担当していたが、昭和59年2月25日被告を退職したこと、(2)甲六は、四條滋樹が原告の本訴提起二カ月前に原告の役員である矢田隆三から依頼を受けて原告訴訟代理人の事務所において事情説明したことを、同代理人が録取してタイプ浄書したものに、四條滋樹が署名押印して作成されたものであること、(3)甲六には、イ、ロ号機械の販売先及び台数の記載はあるものの、個々の販売時期の記載はないこと、(4)甲六記載のイ、ロ号機械の販売先及び台数には、原告側の指摘分を四條滋樹が確認したものと四條滋樹の記憶に基づくものとがあるが、いずれもその裏付となる資料の存否は不明であり、右資料の提出はないこと(右(1)ないし(4)につき甲六、証人四條滋樹、同矢田隆三、被告代表者本人、弁論の全趣旨)、(5)甲六及び証人四條滋樹によるイ号機械の販売先及び販売台数中には、本件特許権侵害行為を構成しない本件発明の出願公告日(昭和55年7月3日)前及び被告新型装置への切替後(但し、被告の被告新型装置への切替時期は、原告主張の昭和59年秋ころではなく、前記三で判示したように、遅くとも同年7月31日であるが、いずれにせよ、四條滋樹が被告を退職した後である。)の製造販売分が含まれていること(甲九の一、二、同一四、一五、乙九、一〇の各一、二、同一一~一五、二〇、富山加工株式会社、有限会社丸栄商店及び武川産業株式会社に対する各調査嘱託の結果、被告代表者本人)が認められる。右(1)ないし(5)の事実に照らすと、甲六及び証人四條滋樹の証言から、直ちに被告が前記1(一)の原告主張の期間に同主張のイ、ロ号機械全部を販売したと認めるのは相当でない。
そして、他に本件発明の出願公告日(昭和55年7月3日)から被告の被告新型装置への切替(昭和59年7月31日)までの間において、被告が自認する前記台数を越えてイ、ロ号機械を製造し、かつ販売したことを認めるに足りる証拠はない(なお、甲一六及びヒシト産業株式会社に対する調査嘱託の結果中には、イ号機械の販売時期が「昭和56年」であるとの旨の記載があるが、乙九の一、二、同二〇及び証人四條滋樹の証言によれば、右記載は「昭和54年12月3日」とすべきところを「昭和56年」と誤記したものと認められる。また、原告は、被告が東京紙管工業株式会社に対してイ号機械を一台販売したことは被告代表者の供述により明らかであると主張するが、右の点についての被告代表者の供述は必ずしも明確なものではない。)。
従つて、本件における原告の損害賠償請求の対象となる被告のイ、ロ号機械販売台数は、イ号機械が一五台、ロ号機械が七台であるとするのが相当である。
(二) 原告の得べかりし利益(主位的請求)
右(一)で判示した期間(昭和55年7月3日から昭和59年7月31日までの間)、原告は本件発明の実施品である紙管口金取付装置を装着した両口型紙管口金取付機及び片口型紙管口金取付機を製造、販売していたことが認められる(証人矢田隆三、同四條滋樹、被告代表者本人、弁論の全趣旨)。しかしながら、原告主張の前記1(二)(2)の事実の前提となる事実、すなわち被告が右期間中にイ、ロ号機械を製造、販売しなかつたならば、原告において同期間中に同台数(イ号機械一五台、ロ号機械七台)の本件発明の実施品を製造、販売し得る余力を有していたこと、右期間中原告が製造、販売していた本件発明の実施品と競合し、これと代替性を有する紙管口金取付機として市場に出ていたのはイ、ロ号機械のみであつて、被告が右期間中にイ、ロ号機械を製造、販売しなかつたならば、確実にこれと同台数の本件発明の実施品を製造、販売し得たであろうこと等の事実を認めるに足りる証拠はない。
従つて、原告の本件損害賠償請求のうち主位的請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないといわざるをえない。
(三) 被告の得た利益(予備的請求)
右(二)で判示したところによれば、原告は、同期間中本件特許権を実施していたことが認められるから、前記(一)で判示した被告のイ、ロ号機械販売によつて損害を被つたものと認めることができ、特許法一〇二条一項の規定により被告の得た利益の額が原告の受けた損害の額と推定される。
そこで、被告の得た利益について、以下項を改めて、イ、ロ号機械一台当りの販売価格、純利益(利益率)の順に検討する。
(四) イ、ロ号機械の販売価格
被告は、右の点について、被告が販売したイ、ロ号機械の販売価格には別紙一覧表記載のとおりバラつきがあるが、標準タイプの販売価格はイ号機械が三五〇万円、ロ号機械が一八〇万円であると主張し、その理由を、「(1)同一覧表記載のイ号機械の販売価格のうち、三洋製紙(四五六万円)、富山加工紙(五〇〇万円)、住友商事(四五一万円)及びレンゴー(四〇五万円、四一〇万円)への販売価格が特に高いのは、三洋製紙への販売分が紙管の半自動供給装置付、富山加工紙への販売分が口金圧入部分を外側から押えるシーマーという装置付といつた特注部分付であり、住友商事及びレンゴーへの各販売分がいずれも外国への輸出品でモーター及び口金の規格の相違、消耗品の追加、防錆処理等の特別な処置をしたものであつたためであり、このような観点から同一覧表記載のイ号機械の販売価格を見ると、一五台のうち八台までは三五〇万円前後であり、イ号機械の標準タイプの販売価格が三五〇万円であると言える。(2)同一覧表記載のロ号機械の販売価格のうち、東京紙管(二五九万円)、小山商店(二三二万円)及び昭和リース(二二〇万円)への販売価格が高いのは、これらが口金圧入と口金引抜き兼用タイプであり設計が一部異なつていたためであり、これらを除けばロ号機械の標準タイプの販売価格が一八〇万円であることは明らかである。」と説明する。
そして、(1)三洋製紙及び富山加工紙への各販売分が特注部分つきである点(三洋製紙につき甲一〇の一、二、乙二一、証人四條滋樹、弁論の全趣旨。富山加工紙につき甲一五、乙二二、弁論の全趣旨。)、住友商事及びレンゴーへの各販売分が外国への輸出品である点(甲六、弁論の全趣旨)において、被告の右説明は事実と符合すること、(2)被告主張のイ、ロ号機械標準タイプの販売価格は、甲六及び証人四條滋樹の証言による平均販売価格と一致すること、(3)イ、ロ号機械との競合品である本件発明実施品(原告製紙管口金取付機)の平均販売価格は、両口型が三六四万一〇〇〇円、片口型が一八〇万円程度であること(証人矢田隆三)に照らすと、被告の右主張及び説明はあながち不合理なものとは言えない。
ところで、前記1(三)において原告がイ号機械一台当りの平均販売価格が四二三万円であると主張する根拠は、丸国興業株式会社への昭和55年6月25日付販売価格三六二万円(甲九の一、二)、三洋製紙株式会社(別紙一覧表記載の三洋製紙に該当)への昭和56年3月30日付販売価格四五六万円(甲一〇の一、二)、大三紙化工業株式会社(同記載の大三紙化工に該当)への昭和57年5月付販売価格三九七万一〇〇〇円(甲一三)、武川産業株式会社(同記載の武川産業に該当)への昭和54年10月15日、同57年12月30日、同60年6月25日、平成元年10月31日付各販売価格三〇〇万円、三五〇万円、六二五万円、四六五万円(甲一四)、富山加工株式会社(同記載の富山加工紙に該当)への昭和57年11月、同60年3月付各販売価格五〇〇万円、三六〇万円(甲一五)の平均値である。また、前記1(三)において原告がロ号機械一台当りの販売価格が二五〇万円であると主張する根拠は、被告が自認するイ号機械の製造原価・その他の経費の合計は三三一万六一六〇円(乙五の二)であるのに対し、被告がイ号機械の販売分であると主張する有限会社丸栄商店への昭和55年5月12日付販売分の価格は二五〇万円(乙一〇の一、二)であるから、これが真実であるとすると、被告は八一万六一六〇円もの損失のうえで取引をしたことになるが、商人である被告がこのような取引をするはずがなく、従つて、原告としては、丸栄商店に対する販売物件はイ号機械ではなく、ロ号機械であると考えざるを得ないというものである。
しかしながら、原告主張のイ号機械の平均販売価格(四二三万円)算定の基礎となる販売分のうち、(1)丸国興業への販売分(三六二万円)は、その時期から判断して本件発明出願公告日前の取引であり、そもそも本件損害賠償の対象にならないものであること(甲九の一、二、乙一一、一四、被告代表者本人、弁論の全趣旨)、(2)武川産業への昭和60年6月25日付(六二五万円)、平成元年10月31日付(四六五万円)及び富山加工への昭和60年3月付(三六〇万円)の各販売分は、いずれもその販売時期から判断して被告新型装置を装着した紙管口金取付機の販売価格であると考えられること(甲一四、一五、乙一二、一五、弁論の全趣旨)、(3)三洋製紙への昭和56年3月付(四五六万円)及び富山加工への昭和57年11月付(五〇〇万円)の各販売分が高価格になつたのは、被告の前記説明のとおりであること(甲一〇の一、二、同一五、乙二一、二二、証人四條滋樹、弁論の全趣旨)等の事実が認められることに照らすと、前記1(三)のイ号機械平均販売価格に関する原告の主張は、直ちに採用できない。また、ロ号機械の販売価格(二五〇万円)に関する原告の主張は、(1)右主張自体、そもそも販売時期から判断して本件発明出願公告日前の取引であるから、本件損害賠償の対象にならないはずの丸栄商店への販売分を、前記1(一)において原告主張のイ号機械販売台数二三台に計上すると同時に、他方においてこれをロ号機械であるとするものであつて、首尾が一貫しないこと、(2)丸栄商店への右販売分は、同商店において従前使用していた別方式の紙管口金取付機の一部を被告製のものに替えたものである(乙一〇の一、二、丸栄商店に対する調査嘱託の結果、弁論の全趣旨)から、被告主張の標準タイプのイ号機械の販売価格三五〇万円より低価格であつても不自然ではないと考えられること等の事実に照らすと、前記1(三)のロ号機械一台当りの販売価格が二五〇万円であるとの原告の主張は、直ちに採用できない。
そして他にイ、ロ号機械一台当りの標準販売価格が、それぞれ被告が自認する三五〇万円、一八〇万円(被告代表者本人)を越える価格であると認めるに足りる証拠はない(但し、被告自認のロ号機械の製造原価・その他の経費の合計一八一万五三七〇円との関係については、後記(五)の判示参照。)。
以上によれば、本件における原告の損害算定の基礎となる被告のイ、ロ号機械一台当りの販売価格は、イ号機械が三五〇万円、ロ号機械が一八〇万円であると認めるのが相当である。
(五) イ、ロ号機械販売の純利益(利益率)
本訴提起後に、被告代表者が原価計算したところによれば、イ、ロ号機械の製造原価・その他の経費の合計はそれぞれ三三一万六一六〇円(乙五の二)、一八一万五三七〇円(乙五の一)である(乙一~五、被告代表者本人)。しかしながら、(1)被告代表者は、イ号機械の販売価格を三五〇万円とした場合の純利益は二〇~三〇万円であり、ロ号機械の販売価格を一八〇万円とした場合の順利益は一五~二〇万円であると供述しており、被告代表者の右原価計算によると、イ号機械の販売価格を三五〇万円とした場合、その純利益は一八万三八四〇円となり、被告代表者が自認する純利益の額とほぼ一致するが、ロ号機械の販売価格を一八〇万円とした場合、差引一万五三七〇円の損失となり、被告代表者の供述と符号しないばかりか、不合理な結果となること、(2)右の点につき、被告代表者自身もロ号機械を損までして販売するのはおかしいから調査の必要があると供述していること、(3)被告代表者は、右原価計算は作業日報や仕入れ台帳等の資料をもとになしたものであると供述するが、それら原資料の提出はないこと、(4)証人四條滋樹は、右原価計算において計上されたイ、ロ号機械の材料費(乙五の一、二記載の油圧ポンプユニツト、鋼材の購入代金、電気制御関係費用)及び一時間当りの製作経費(乙五の三記載の三八七〇円)、並びにイ号機械の製造に要した時間(乙五の四記載の四九三.八一時間)は、いずれも同証人が被告在職当時に認識ないし算定していた金額や数字と比較して過大であるとの趣旨の証言をしていることに照らすと、被告代表者による原価計算の結果(乙五の一、二)をそのまま採用することはできない。
また、被告代表者は、イ号機械の販売価格を三五〇万円とした場合の荒利益は一五〇万円であり、ロ号機械の販売価格を一八〇万円とした場合の荒利益は六〇万円であると供述しているが、右各荒利益の額は、甲六及び証人四條滋樹の証言による各荒利益の額と一致する。右荒利益の額からすると、被告代表者が自認するイ号機械の販売価格を三五〇万円とした場合の純利益二〇~三〇万円、ロ号機械の販売価格を一八〇万円とした場合の純利益一五~二〇万円は、いずれもいささか低過ぎるから、この点に関する被告代表者の供述は採用し難い。
ところで、本訴提起直前に、原告の役員である矢田隆三が伝票等の資料をもとにして原価計算したところによれば、本件発明の実施品である原告製の両口型、片口型紙管口金取付機の製造原価・その他の経費の合計はそれぞれ二四六万〇〇九四円(甲七の八)、一二八万五七三〇円(甲七の四)であり、イ号機械との競合品である両口型の販売価格を三五〇万円とした場合、その純利益は一〇三万九九〇六円、利益率は二九・七パーセント、ロ号機械との競合品である片口型の販売価格を一八〇万円とした場合、その純利益は五一万四二七〇円、利益率は二八.六パーセントとなる(甲七の一~九、証人矢田隆三)。また、原告が本訴提起後の昭和62年6月に製造、販売した本件発明の実施品(両口型)について原価計算したところによれば、製造原価・その他の経費の合計は二二五万七八四九円であり(甲八、証人矢田隆三)、右実施品の販売価格を三五〇万円とした場合の純利益は一二四万二一五一円となり、利益率は三五・五パーセントとなる。
しかしながら、(1)右各原価計算のうち、前者については計算の裏付けとなる原資料の提出はないし、後者については右製造状況を撮影した写真(甲八)の他に計算の裏付けとなる原資料の提出はないこと、(2)甲八によれば右実施品製造に要した時間は二四六時間二〇分となるが、これは、先に提出された矢田隆三作成の原価計算書(甲七の一~九)に記載された両口型の製造時間三〇一時間(甲七の七)を一八・二パーセントも短縮するものであり、その結果、両口型の製造原価・その他の経費の合計が八・二パーセントも減額になること、(3)そもそも、原告が本件発明の実施品の製造に使用する材料は、外注加工済のものや材料屋において既に材料取り等の段取を済ませたものが多いのに対し、被告の方はイ、ロ号機械の製造に使用する材料をほとんど自社で加工しており、原告よりも製造時間が長くかかり、そのために製造原価が高くなると考えられること(証人四條裕俊、弁論の全趣旨)等の事実に照らすと、右各原価計算の結果は、いずれもこれをそのまま被告が販売したイ、ロ号機械の純利益(利益率)を認定する資料として採用し難い。
以上の事情に、(1)被告代表者は、被告がイ、ロ号機械製造、販売開始前に製造、販売していた両口型紙管口金取付機(中空回転軸方式の紙管口金取付装置を装着したものと考えられる。)の販売価格を二〇〇万円とした場合の純利益(利益率)は五〇万円(二五パーセント)であると供述していること(なお、被告代表者は、被告が右中空回転軸方式の両口型紙管口金取付機を製造、販売していたのは昭和44年12月以前である旨の供述をしているが、①被告代表者は、被告が昭和55年当時右両口型紙管口金取付機を製造、販売していたとも供述していること、②前示のとおり被告がイ、ロ号機械の製造販売を開始したのは昭和54年12月であるが、被告代表者は、その旨の供述もしていること、③(2)後記(2)のイ、ロ号機械が設計されるに至つた経緯に照らすと、被告代表者の前記供述は、「昭和54年12月以前」とすべきところを、「昭和44年12月以前」と間違つて供述したものと認めるのが相当である。)(2)イ、ロ号物件及びこれらを装着したイ、ロ号機械は、右中空回転軸方式の紙管口金取付装置に代わる装置の開発に苦心していた被告が、本件発明の発明者である山田博幸経営の山田工業所から同人作成の設計図を入手し、これを参考にして設計したものであること(甲一、六、証人四條滋樹、被告代表者本人)、(3)現在、被告は、イ、ロ号物件を設計変更した被告新型装置(但し、楔軸の往復動によりポンチ部とプレス具とを作動させる方式である点ではイ、ロ号物件と同じである。)を装着した両口型、片口型紙管口金取付機を製造、販売しているが、その販売価格はイ、ロ号機械とほぼ同価格であること(証人四條裕俊、被告代表者、弁論の全趣旨)等の事実を総合考慮すると、被告のイ、ロ号機械販売による利益率(純利益)は、右中空回転軸方式製造販売当時の利益率(販売価格の二五パーセント)を下らないものと認められる。そして、他に被告のイ、ロ号機械販売による利益率が販売価格の二五パーセントを越えると認めるに足りる証拠はない。
従つて、右利益率は、販売価格の二五パーセントであると認めるのが相当である。
(六) 被告の得た利益のまとめ
前記(一)及び(三)ないし(五)で判示したところによれば、被告が、イ、ロ号機械販売により得た利益の額は、一六二七万五〇〇〇円(三五〇万円二五パーセント一五台一八〇万円二五パーセント七台)であり、これが原告の受けた損害の額と推定される。
被告は、その決算内容(乙一~四、六~八、一九)をもとに、イ、ロ号機械製造、販売開始前後で被告の売上及び営業利益に大差はなく、むしろ、製造、販売開始後は赤字決算を強いられることもあつたし、利益率について言えば、イ、ロ号機械製造、販売開始前の最良の利益率は第二一期(昭和51年)の七・九パーセントであるのに対し、同開始後の最良の利益率は第二五期(昭和55年)の五・四パーセントであるにすぎないと主張するが、仮にそうだとしても、右決算の内容及び利益率は、企業としての被告の個々の営業活動の集大成であり、被告が製造、販売した個々の製品の利益率そのものではないから、そもそも右推定を左右する事情足り得ない。
そして、他に右推定を左右する証拠はない。
(七) 弁護士・弁理士費用
原告が、被告の本件特許権侵害行為により、自己の権利を擁護するために本訴提起を余儀なくされ、訴訟追行を弁護士である原告訴訟代理人に委任したこと、同代理人は弁理士である同代理人輔佐人を選任したことは、本件記録上明らかであるところ、その弁護士・弁理士費用については、本件訴訟の性質、本件事案の難易、請求額、認容された額、その他諸般の事情を斟酌すれば、一五〇万円が被告の不法行為と相当因果関係に立つ損害と認めるのが相当である。
(八) 原告の損害のまとめ
以上によれば、前記(六)、(七)で判示した金額の合計金一七七七万五〇〇〇円が、被告の本件特許権侵害行為により原告が被つた損害であると認められる。
第七結論
以上のとおりとすると、原告の本訴請求は主文第一項の限度で理由があり、その余は理由がないことになるから、右理由のある限度でこれを認容し、その余を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 長井浩一 裁判官 辻川靖夫 裁判長裁判官上野茂は転補のため署名押印することができない。裁判官 長井浩一)
<以下省略>